乙武洋匡氏の「高齢者と若年層の”一票の格差”にも目を向けるべきという筆者(池田信夫氏)の意見に賛同」というtweetに驚愕

昨日、乙武洋匡氏のtweetに目を疑いました。私は、乙武氏をフォローしていないが、乙武氏のtweetがリツイートされたため、私のタイムラインに流れてきたのです。

私は、そのtweetを目にし、驚愕しました。

tweetの内容は以下の通りです。

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高齢者と若年層の“一票の格差”にも目を向けるべきという筆者の意見に賛同。ぜひ、実現に向けて議論を重ねていきたい。 / 世代別選挙区のすすめ : 池田信夫 blog http://t.co/cV6H4mukbZ #NewsPicks
2015/05/23 1:37

乙武氏は、経済評論家である池田信夫氏のブログ記事「世代別選挙区のすすめ」を読み、池田氏の主張に賛同したわけです。さらに、賛同するだけでなく、「実現に向けて」と意欲まで示しました。

ちなみに、乙武氏は、東京都教育委員です(任期は2013年2月28日〜2017年2月27日までの4年間)。教育委員は、法律上、非常勤の特別職地方公務員です。

 

池田信夫氏の主張「世代別選挙区のすすめ」とは

池田信夫氏の主張は、先に実施された「大阪市住民投票」について、「税金を払う世代と使う世代の対立を鮮明にした」と、住民投票についての考察をもとにしています。

「税金を払う世代と使う世代」という区別自体、疑問ですが、ここでは立ち入りません。

このような前提に立って、池田氏の主張は主に二つ。

ゼロ歳児にも選挙権を与えることだ。もちろんゼロ歳児は投票できないので、20歳未満の子供をもつ親に2票を与える。これがドメイン投票法と呼ばれるもので、小黒さんによればこれで高齢者の比率は1割ぐらい下がる。

 

もう一つは世代別選挙区だ。これは一つの選挙区を「老年区」「中年区」「若年区」にわけて人口に比例した定数を配分し、投票率の差をなくすものだ。20歳未満の「子供区」を設け、この分の選挙権を親が行使してもよい。

池田氏の結論は、「わかりやすさから、世代別選挙区がいいと思う」と。

この他にもいろいろな案があるが、私は老人と若者の「1票の格差」を是正するというわかりやすさから、世代別選挙区がいいと思う。子供区を設ければ、ドメイン投票もかねることができる。都市と地方の定数是正には訴訟を起こしたりする熱心な人がいるので、ぜひ世代別の定数是正にも取り組んでほしい。

要するに、世代別(年齢別)で選挙区を設けて、子供区を設置せよと言うわけです。「ドメイン投票」とは、選挙権の無い子供に選挙権を付与し、子供の代理として親が代わりに投票するというものです。

ドメイン投票法とは、子どもにも選挙権を付与し、親が子どもの代理として投票する仕組みであり、全人口で一定の割合を占める20歳未満に選挙権がない問題の打開策として提唱されたものである。

 池田信夫氏の主張は無理筋

①ゼロ歳児にも投票権を与えることが、可能なのか

現行の公職選挙法では、第9条で

(1) 日本国民で年齢満二十年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
2  日本国民たる年齢満二十年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。

 と定めています。もちろん、「満20歳以上」と満20歳未満の区別が合理的であるかは検討の余地があるでしょう。しかし、公職選挙法は、戦前の「女性に参政権が無い」「納税額によって参政権が与えられる」という合理的根拠が無い「制限選挙」の差別を解消するために作られたという経緯があります(憲法14条)。根拠としては「判断能力」などをもとにされています。ただ、住民投票は、条例で定めるため、与那国島では投票資格者を「中学生以上」「永住外国人」にも認めています。でも、子供に代わって、親が投票するというのは、さすがに無理があるといわなければなりません。

 

②世代別選挙区は可能なのか

選挙の区割りは、公職選挙法や、例えば、「衆議院議員選挙区画定審議会設置法」で定められています。後者についての区割りは「地域」です。住民が、選挙によって、その「地域」で「誰がふさわしいか」を念頭にしているのです。この区割りについても、現時点で、不合理な区別があるとは言えないでしょう。むしろ、池田氏が主張する「老年区」「中年区」「若年区」という区割りが、果たして、可能で合理的根拠があるのか。また、「何歳」で区分けするのでしょうか。仮に、それが、可能として、今回の大阪市住民投票で、「若年区」投票者が、投票に行ったのかどうかは、制度の問題よりも、関心度の問題だと思います。

 

③見過ごせないのは「都市と地方の定数是正には訴訟を起こしたりする熱心な人がいる」。では、世代別では訴訟が起きないのか

現在、主に、国政選挙において「1票の価値」を問題に、その不平等が「憲法14条に違反する」として、全国各地で訴訟が提起されています。これは、居住区で「1票の価値が違う」としているわけですが、各高裁では、温度差があるものの、少なかれ「違憲状態」との判決・判断が下されています。確かに、居住区によって1票の価値が平等でなく、それが、合理的な区別とは言えないなら、憲法に違反している、と言えるでしょう。しかし、池田氏が主張する、「老年区」「中年区」「若年区」にしたとしても、これは、むしろ、1票の価値を不平等にする制度で、「訴訟が起こらない」理由にはなりません。いや、今より訴訟が起きるのではないでしょうか。

 

乙武氏には、特別職公務員としての自覚を持って欲しい

乙武氏は、東京都教育委員として、特別職公務員の立場にあります。個人的な見解は別として、教育委員としての自覚を持っていただきたいと思います。池田氏の主張は、いち経済評論家としての意見として、受け入れることが出来ます。しかし、乙武氏は、違います。今回のtweetは、一人の市民としての意見かも知れません。しかし、立場をわきまえる必要があります。今回、池田氏の意見に単純に乗っかっただけかも知れません。ですが、その影響は、多大です。ご自身の信念を貫くのも自由ですが、今一度、ご自分の言動について、自ら検証することを強く望みます。