税務調査の「任意性」と事前通知について。ある一市民の「考察」(2013年2月・記)

2013年2月に自身の問題意識として、「覚え書き」をしました。

思いつきで、殴り書きっぽいですですが、素人なりに考えました。

これまで、公表する機会がありませんでした(し、今後もない)ので、ここに記録として掲載します。

1、税務調査は、「任意」調査と言えるのか

税務調査において、税務署員の違法とも言える調査活動が横行している。
税務調査は、犯罪捜査ではないから、「任意」調査であると言われている。
確かに、所得税法違反事件としての犯罪捜査ではないから、そのような意味では「任意」調査と言える。
 
しかし、一方で、正当な理由がないのに、調査に応じない場合には、罰則規定が適用される。
罰則規定の内容は、「1年以下の懲役または20万円以下の罰金」で、決して軽い罰則規定とは言えない。
 
罰則規定を背景として、調査に応じなければならないというのは、「任意」と言えるのか。
 
また、「任意」という言葉の内容から、その性格については、様々な、捉え方が存在している。
極端に言えば、税務署員の「求め」に、納税者が応じれば「なんでもあり」で、実際に「なんでもあり」の調査が横行しているのが実態である。
 
では、納税者が応じれば「なんでもあり」というのは、妥当と言えるのか。
 
例えば、刑事手続の規則として、「犯罪捜査規範」(最終改正 平成24年6月21日 国家公安委員会規則8号)では、「第4章 任意捜査」(任意捜査の原則)を規定しているが、第108条(人の住居の任意の捜査の禁止)で、「人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶につき捜索をする必要があるときは、住居主又は看守者の任意の承諾が得られると認められる場合においても、捜索許可状の発布を受けて捜索をしなければならない」と定めている。
 
保護されるべき法益について、その法益の性格によっては、たとえ、「任意の承諾」があったとしても、行ってはならない範囲と、その限界を定めている一例である。
 
税務調査は、事業所または住居に立ち入り、帳簿書類の確認や口頭での質問に答えるという形で行われるのが一般的である。
 
本来、税務調査は、記帳や納税実務に長けていない事業者に対して、経費の計上や帳簿への記載の仕方などを「手助け」しつつ、間違いや指摘するべき事項があれば、指摘するなど、「調査」というよりは「啓蒙」という側面もあるのではないか。
だとすると、税務調査は、税務署と納税者が、互いに協力し合い、行われるべきであろう。
したがって、納税者の協力が得られない税務調査は成り立たないし、協力があって初めて「任意」調査と言えるのではないか。
 
しかし、税務調査が行われている現場と、その実態は、大きくかけ離れている。
 
では、現在、行われている税務調査が、はたして「任意」調査と言えるのか。
 

2、「公権力の行使」としての税務調査ー適性手続きを欠いた行為は違法である

税務調査は、いうまでもなく税務署員が行う。
税務署員の地位は、国家公務員であり、そうだとすると、税務署員が実施する税務調査は「公権力の行使」である。
 
公権力を行使」するにあたっては、根拠法が必要である。
さらに、法律などの定めに従った手続きを経なければ、その権力行使は正当性を欠き、「違法」である。
 
改正国税通則法(2013年1月施行)は、税務調査において、調査対象となる納税義務者に対して「事前通知」を行うことを明文化した。
 
事前通知の内容は、「実地調査の開始日時」「調査を行う場所」「調査の目的」「調査の対象となる税目」「調査の対象となる期間」「調査の対象となる帳簿書類その他の物件」「その他の調査の適性かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項」である。
これらの改正事項は、極めて当然のことである。
 
しかし、見過ごすことのできない、「事前通知を要しない」との例外規定が盛り込まれた。
改正通則法74条の10は、「(略)正確な課税標準又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合」には事前通知を要しないと規定された。
 
つまり、調査が適正に行えない「おそれ」があると税務署長が認めた時は「事前通知」をしなくても、「違法」とはならない。
 
しかし、「おそれがある」と判断するのは、税務署長であり、その「おそれ」も、実際に「妨害行為等」が行われたという事実をもって判断するのではない。全く、根拠のない、先入観に基づいた、いわゆる「不安感」である。
「おそれ」の解釈も、税務署長まかせであり、これでは、「おそれ」の範囲が際限なく広がることを否定することはできない。
 
「おそれ」があると認め、事前通知を行わない税務調査は、どのような調査になるのか。
それは、何の前触れもなく、税務署員が事業所又は住居に訪れ、納税者の反対意思を封じ込め、直ちに、調査を実施するという、警察や検察が行う犯罪捜査顔負けの極めて乱暴な強制調査になることは想像に難くない。なぜなら、直ちに、調査を実施せず、納税者の都合を聞いて出直す、ということでは、事前通知を行わない意味がなくなるからである。
しかし、このような調査は、調査対象者の選定から、「おそれ」の認定、直ちに調査の実施という一連の流れを見れば、適正手続を欠き違法である。
 
さらに、「適正な調査の遂行」を確保するための目的を達成するために、「事前通知を行わない」という手段は、目的と手段との合理的関連性が認められず違憲である。そもそも、互いが協力して成立する税務調査において、一方の側の税務署が、納税者を「犯罪者扱い」すること自体が筋違いであり、不当である。
 
「事前通知」をすることによって適正な調査ができない「おそれ」があるのであれば、「任意」調査ではなく、刑事事件として、その手続きに従って行えば良いのであって、税務署長の思い込みという主観的判断は排除されるべきである。