安保法制(「国際秩序維持」を中心に)ー日本政府の建て前と本音。柳澤協二論文を読んで

「検証・安保法案:どこが憲法違反か」に収録されている柳澤協二氏(元防衛省防衛研究所長、元内閣官房副長官補)の「安保関連法案の論点ー「国際秩序維持」に関する法制を中心に」という論文を、ご紹介します。

(引用部分を含めて太文字は筆者)

 

ガイドライン(2015年4月27日)を実現するため

まず、柳澤氏は、安保関連法の位置づけを以下のように行っています。

日米安全保障協議委員会において合意された「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)を実現するための法制としての位置づけを与えられているという点に大きな特徴がある。

えっ!日本の存立危機のためじゃないの?と思われるかもしれません。安倍首相や国会での審議では、日本を守るためと何度も言われてきました。

納得したのか、理解できたのかは別として、そのように政府は説明を繰り返してきたんです。

でも、柳澤氏は、「新ガイドラインを実現するための法制としての位置づけ」と言い切っています。では、新ガイドラインはいつ合意されたのか。それは、2015年4月27日です。

安保法案が国会に提出されたのが、2015年5月ですから、4月の段階で合意がされたのは不思議ではないでしょうね。でも、合意後に法案を作成していたのでは間に合いません。

これは、わたしの推測ですが、法案はほぼできていて、新ガイドラインの合意をうけて、若干の調整をしたのではないかと思います。

続けて、日本政府の本音と建て前にも言及しています。

政府が好んで使う「国民の生命を守るための切れ目のない法制」というよりも、その実体は「日米同盟強化のための法制」である。その実体との乖離を説明する論理が、「日米同盟が強固であれば抑止力が向上して日本が戦争に巻き込まれなくなる」という、抑止の論理だ。

わたしもずいぶんと政府の説明を聞いてきましたが、いまいちしっくりきませんでした。でも、柳澤氏の本質を突いた指摘に「なるほど」と理解できました。

上記のように説明されると、これまでの政府の説明が理解しやすくなります。

国会では、アメリカ軍と自衛隊の共同訓練の模様が指摘されたり、自衛隊の陸・海・空の指令本部がアメリカ基地に置かれていることなど、日米一体化のありさまが、告発されました。

安保法制は、日本人の命と暮らしを守ることを直接の目的とするのではなく、アメリカ軍の作戦に自衛隊が一体となって組み込まれるんだと言うことを改めて実感しました。

柳澤論文は、序論でほぼ言い尽くしたようなものですね。

イスラム国との戦闘を支援するニーズの発生に「切れ目なく」備えること

国際平和支援法の問題点は、自衛隊の派遣枠組みの高級化だけでなく、その要件、活動内容が従来の「テロ特措法」「イラク復興支援特措法」と全く異なっている。

 派遣の要件としての問題点としては、わが国が積極的に寄与すべきか否かの判断基準は何かなど、基本的な判断基準の曖昧さが見て取れるんですよね。

細かい点には立ち入りませんが、柳澤氏は、

注目すべきは、国連安保理武力行使を明示的に容認していない場合でも、諸外国がこれに対処するための活動として武力行使を行う場合を除外していないことだ。

 と述べています。

具体的には、いわゆる「イスラム国」を攻撃する国への支援について、安倍首相の答弁を指摘しています。

安倍首相は衆議院安保特別委員会(2015年5月28日)で、「政策判断として実施しない」と答弁しています。

柳澤氏は、

首相の答弁は、その場合でも、いわゆる有志連合軍に対する支援は政策上の問題であり、法律上できないわけでない、ということだ。

 と述べています。

つまり、多国籍軍に後方支援部隊を派遣することが可能になるんですよね。

ただ、「戦闘行為」との関係で、政府の憲法解釈の論理との関係が焦点になります。

政府の憲法解釈の論理で言えば、「イスラム国」をつまり、国家間の紛争と「政府の樹立を目指す内戦の当事者」である場合の戦闘は、「国際紛争の一環となりうる」が、相手が「犯罪者集団」である場合には、該当せず、自衛隊の活動は否定されないことになるんですよね。

となると、「イスラム国」を「国に準じる主体」と見るのか、犯罪者集団にすぎないとみるのか見るのかにかかっている。日本政府は、テロリスト集団と認定しているから、イスラム国との戦闘への支援について憲法上の問題はないことにならざるを得ない、ということになるんですよ。

このような検討を行った上で、柳沢氏は、

今日の国際情勢の下でこの法案が提出されたことの意味は、政府の主観的な意図はともかく、イスラム国との戦闘を支援するニーズの発生に「切れ目なく」備えること以外に見いだし難いのである。

 と、安保法制が提出されたことの意味を深く分析しています。

いやあ、恐ろしいですよね。

「国際平和支援法」の立法、「国際平和協力法」(PKO法)の大幅な変更

自衛隊の海外派遣に関するものとしては、米軍支援のための「重要影響事態安全確保法」、国際秩序維持を名目とした「国際平和支援法」と「国際平和協力法」(PKO法)があります。

上記については、「国際平和支援法」について検討した内容です。唯一の新規立法です。

自衛隊の派遣の要件が主な内容ですが、これだけを見ても、政府答弁の表と法律上可能かどうかは、まったくくといっていいほど理解されていないんじゃないでしょうか。

わたし自身、すべての法律の改正案に目を通したわけではありませんが、柳澤論文を読んでみると、違った視点での指摘が大いに参考になります。

防衛研究所長であり、元内閣官房副長官補ならではの視点と思考が整理され記述されています。

法律はすでに成立していますが、世論調査の「説明不足」とは違った意味でですが、自衛隊が実際にできることとできないことの区別が、国民には理解できていないように思われます。

法律を実施させないことは大事ですし、国民の監視が必要だと言うことを痛感しました。

 

【参考記事】

www.nishitaku.com

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