「砂川事件」最高裁判決を読む! 自衛権は認めるけどねぇ。じゃあ、集団的自衛権は?

ブログの方向性が定まらない、西村卓です。

 今日は、今国会で議論されている「安保法制(案)」の質疑で、政府が憲法解釈の根拠として盛んに持ち出してきている「砂川事件」について、出来るだけ「判決文」に沿って、考えてみます。一素人の考察で、問題提起でもありますので、ご意見など、いただけると幸いです。

じつは、1年ほど前に下記の記事を書いていました。今、読み返すと恥ずかしい、の一言です。ですが、公明党の山口代表が、1年前と今とでは、砂川事件に対する解釈を大幅に変えていますので、掲載しておきます。

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 まず、小泉首相(当時)が自衛隊イラク派遣の際、憲法前文を持ち出し、その正当性を強調しました。でも、憲法の全体の理念に関わりなく、一部分だけを持ち出して正当性を強調するのは、おかしいんですよね。以下、前文のなかで、持ち出した部分をご紹介します。

われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ

(太字は筆者。以下、引用内について同様)

要するに、自分たちのことばかり考えていてはいけなくって、日本国民は、崇高な理想と理念を達成するのだと。

で、イラクへの派遣を行った。名古屋高裁

現在,航空自衛隊イラクにおいてアメリカ兵等武装した兵員の空輸活動を行っていることは,憲法9条1項に違反する

と、違憲との判断を行いました。

日本政府として、きっちりと検証して欲しいですね。

砂川事件とは

砂川町(現・立川市)の米軍基地拡張に反対する人々が、米軍基地内に数メートル侵入したとして、刑事特別法2条違反で起訴された。これが、砂川事件です。

一審(東京地裁)判決の概要は、駐留米軍が憲法9条2項の戦力不保持に反するとし、刑事特別法は憲法31条に違反し無効として、被告人を無罪としたのでした。

一審判決後、検察側が、最高裁に飛躍上告したんですよ。高裁をすっとばして。

最高裁判決(引用部分、太字は筆者、以下同様)は、

一、先ず憲法九条二項前段の規定の意義につき判断する。そもそも憲法九条は、わ が国が敗戦の結果、ポツダム宣言を受諾したことに伴い、日本国民が過去における わが国の誤つて犯すに至つた軍国主義的行動を反省し、政府の行為によつて再び戦 争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、深く恒久の平和を念願して制 定したものであつて、前文および九八条二項の国際協調の精神と相まつて、わが憲 法の特色である平和主義を具体化した規定である。

 最高裁は、まず、判決文を上記から、はじめます。注目したいのは、太字の部分ですけど、安倍首相は、この部分を詳らかに読んでいるのですかね。

 続いて、憲法9条1項、2項の解釈を行い

しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。

わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。

 と述べ、自衛権を否定されておらず、平和と安全を維持するための必要な自衛の措置をとることが出来ると。ここまでの部分を読むと、過去の誤った軍国主義的行動を反省し、平和主義の具体化として憲法9条が規定された。憲法9条は、戦争を放棄し、戦力の不保持を定めたけれども、自衛権までは、否定していないってことですかね。

右のような憲法九条の趣旨に即して同条二項の法意を考えてみるに、同条項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自らその主体となつてこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条一項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するを相当とする。従つて同条二項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となつてこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。

これは、引用部分の最後、外国の軍隊は、わが国に駐留するとしても、(日本政府が、指揮権、管理権を行使しえなため)「戦力には該当しない」との結論を導くための検討ですね。どうしてこのような解釈が必要だったかというと、砂川事件の性質からです。そもそも、駐留米軍基地に立ち入った人々を刑事特別法で裁けるのかどうか、駐留米軍の違憲性を正面から問うた裁判だったんですから。

 集団的自衛権憲法上、認められるの

続いて、日米安全保障条約憲法適合性について検討しますが、「違憲であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない」と。で、

右安全保障条約の目的とするところは、その前文によれば、平和条約の発効時において、わが国固有の自衛権を行使する有効な手段を持たない実状に鑑み、無責任な軍国主義の危険に対処する必要上、平和条約がわが国に主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章がすべての国が個別的および集団的自衛の固有の権利を有することを承認しているのに基き、わが国の防衛のための暫定措置として、武力攻撃を阻止するため、わが国はアメリカ合衆国がわが国内およびその附近にその軍隊を配備する権利を許容する等、わが国の安全と防衛を確保するに必要な事項を定めるにあることは明瞭である。

十分とは言えませんが、砂川事件最高裁判決を、原文に基づいて見てきました。

流れとしては、①誤った軍国主義を反省し現行憲法を制定した、②しかし、憲法自衛権までは否定していない、③駐留アメリカ軍は、日本の指揮、管理下にないから、憲法のいう「戦力」とはいえない。といったところでしょうか。ちなみに、判決は、自衛隊の合憲性について触れていません。

 

私が、判決を読んでの実感は、万が一、他国に攻撃された場合に国として、国民の生命と暮らしを守ることをせず、手を拱いていてはダメですよ。この範囲で、自衛権を認めたんじゃないかなぁと。いずれにせよ、少なくない憲法学者が(自然権としての)自衛権を認めており、その手段は、私には定かではありません。でも、自国(日本)が攻撃されていないにもかかわらず、「我が国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険」という曖昧な要件で自衛隊が海外にまで出て行くってのは無理があるんじゃないでしょうか。

 

最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。

 

なお、参考文献として、「新・判例ハンドブック」を使用させていただきました。

新・判例ハンドブック憲法

新・判例ハンドブック憲法